
脱炭素設備に切り替えるという中小製造業者が銀行の窓口に座る。担当者は、どの設備を、いつまでに、どの排出水準まで下げるのかを尋ねる。答えを検証する基準表と、その答えが実際に守られたかを数年後に確認する手続きが窓口の奥にあるのか。トランジションファイナンスは協約の締結件数で成否が分かれることはなく、この二つが備わっているかにかかっている。
農協金融が1号の実行を出した後、銀行界の業務協約と専用の支援商品が相次いでいる。脱炭素へ向かう企業に資金を出す経路自体は広がる流れだ。経路を通過する資格を選別する機能は、それほど育っていない。
審査基準と事後管理の体系が確保されていないトランジションファイナンスは、従来の企業与信に緑色の標識を重ねた再包装で終わる。
トランジションファイナンスは、褐色から緑色へ移動している最中の事業に資金を出す概念だ。緑色に分類が終わった事業は対象から外れる。だから審査が難しい。
今の排出量が多いという事実自体は欠格事由にならず、代わりに削減経路が信頼できるものかを問わなければならない。削減目標の基準年と単位、中間点検の時点、未達時の処理方法が与信の約定の中に入っていなければ、審査は宣言を書き写す作業にとどまる。
反論は強い。初期には市場を育てることが優先で、基準を厳格にかければ、いざ資金が必要な中堅・中小企業が排除されるという指摘だ。実際に削減経路を文書で設計する人材を備えたところは大企業の側に集まっている。この指摘は妥当だ。
しかし、その答えは基準を下げる側であってはならず、基準を代わりに作ってやる側でなければならない。業種別の標準削減経路と検証書式を公的領域で提供すれば、企業はコンサルティング費用をかけずとも審査を通過する言葉を持つことになる。基準を消せば、資金は流れても削減は残らない。そのとき損失を抱えるのは、数年後に不良を確認する銀行と、トランジションファイナンスという言葉自体の信頼だ。
事後管理はさらに弱い環だ。融資は実行の時点で一度評価されて終わるが、削減は5年、10年にわたって起きる。実行後の排出実績を定期的に受け取って目標と照らし合わせ、逸脱が確認されれば金利や限度を調整する連動装置がなければ、転換という名は実行当日にだけ有効だ。
協約の件数と商品の発売は今後も増えるとみられる。トランジションファイナンスに分類された与信が実行後にどの周期で点検を受けるのか、目標に届かなかった事例をどう処理するのかが公開され始めたとき、初めてこの市場の実体を推し量ることができる。点検周期と未達の処理基準を公開するかどうかが確認の地点だ。
